●アルプホルンの歴史
アルプホルンはアルプスの酪農業のシンボルであり、16世紀頃から牧場で家畜の世話をする牧童の道具として用いられてきました。牧童はアルプホルンを吹くことで、牛たちを集めたり、移動させたりしていました。
アルプホルンの音色はとても大きいですが太く柔らかく、温かみがあります。現代でも牛たちに聴こえるようにアルプホルンを吹くと自然と集まってきます。人間はもちろん、牛たちを和ませたり乳の出を良くしたり、誘導したり、注意を引く効果もあったののでしょう。
しかし、無線や電話など通信手段の発達や牧畜方法の変化に伴い、アルプホルンの必要性は失われ、18世紀にはその存在はほとんど忘れられてしまいました。そうした中、スイス・ヨーデル協会(EJV)などを中心としてアルプホルンをスイスの象徴として復興させる取り組みが行われ、現代では国民的楽器として、ソロ、デュオ、トリオ、カルテット、合唱、オーケストラや教会のオルガンの伴奏などに使われるようになりました。
(参考:スイス連邦文化局)
●アルプホルンの形の由来
アルプホルンの独特な曲線は斜面に生えている木をそのまま使ったものでしたが、現在では切り出された無垢材や、集成材(積層材)とよばれる木材を加工して作られます。いずれにしても制作中および制作後の変形・曲がりの発生を抑えるための工夫が凝らされています。
アルプホルンは道具であった時代から、現代では「楽器」として演奏のしやすさや音色、正確な音程が求められるようになっています。そのため、伝統的な手彫りではなく、工作機械を用いて音響的により正しい楽器へ近づけていくようになりました。
●アルプホルンの制作方法
制作方法は工房によって異なりますが、「のみ」やチェーンソーなどを用いて手で掘っていく作り方を続けるところや、カットされた木材をNC(数値制御)の加工機械によって正確に削っていくところがあります。現在市販されているアルプホルンはほとんどがNC工作機械によるものです。
●アルプホルンの素材
スイスやドイツで制作されるアルプホルンには、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹であるトウヒ(スプルース:Spruce/Fichte)が使われます。また、色や質感の異なる素材として、カバノキ科ハンノキ属の広葉樹アルダー(Erle/Alder)が用いられることもあります。一方、国産のアルプホルンはヒノキやスギで作られています。
●アルプホルンの調性
アルプホルンの調性は「Ges(G♭):変ト」が最も一般的です。スイスではほぼGes調の楽器に統一されています。オーストリアや日本ではそれよりも半音低い「F」調のものも使われています。
日本ではGes調とF調の楽器が混在しており、異なる調性の楽器が一緒に演奏するには、楽器のマウスピース側の一番細い管(3または4番管)を200mm長いものに取り換えるか、マウスピースと楽器の間に約200mmの延長アダプターを繋げてF調に統一する必要があります。
この他、レオポルド・モーツァルトの協奏曲では「G」が指定されています。また、日本では北海道でF管よりも半音低い「E」調の楽器が使われていたりします。オーストリアではさらに半音低い「Es」調の楽器もあるようです。 一般的に、長い楽器の方が響きは豊かに、音量も大きくなりますが、全長は伸びるため重量も増加し、持ちにくくなります。
●アルプホルンの演奏
2014年にスイスのナンダで開催された国際アルプホルンフェスティバルのグランドファイナルで優勝したトリオ(R.Scotton、P.Gantelet、M.Petit)による演奏。フランスの街アヌシーのグループです。当グループも友人として交流があり、しばしばアドバイスを貰っています。